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宝石

by amahisa

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1.
宝石 00:44
私は、砕けた宝石を抱えている どこにもない、ただ一つだけの 私だけの宝石 崩れ落ちた一欠片さえ それが私であるはずだから 誰かに赦される為ではなく 私を赦す為に、抱き続ける いつだって、私を救ってくれはしないのに これは私だから これが私だからと 宝石に、祈り続ける あの時と同じ輝きを放つ宝石に あなたが見つけてくれた私という宝石に 祈りを捧げる 誰しも、黄金のままではいられないのに
2.
「君の中に宇宙が見える」 今まで見たことのない優しい顔をしながら あなたの手のひらが私の両手を包む 傾いた太陽が二人の頬に紅を差す時 私は、私が宝石であると知った 私は、鏡の中の私を見つめる 覗き込んだ瞳は 真っ暗で、底の無い湖のように 何も映さない、何も聴こえない どれだけ探しても 宝石なんて見つからない 石の一欠片すら持ち得ない 私が、私だけが 何も持っていなかった それは仕方の無いことだから 贋物の指輪が必要だった 欲しい物は、とても怖いから 水底には、光は届かないから それなのに あなたが私を見つめた時から あなたが私を見つけた時から 私の世界は光溢れてしまった 何色に輝いているのだろう どのくらいの大きさなのだろう 形は?重さは?すべすべしているの? 熱いのかな、硬いのかな 輝くのかな、歪むのかな ずっと見つけられなかったのに あなたが見つけてくれたこの宝石が 愛おしくて、恐ろしくて、眩しくて 失うのが怖くなってしまった 私は宝石に魅入られてしまったのだ あなたが隣にいる間 私の宝石は光り輝いた 淡く透明な光が二人の輪郭を曖昧にする 私の中から新しい宝石を見つけるたびに それはまるで元から存在していたかのように 私の中に一つずつ飾られていく どうしてそんなに見つけてくれるのだろう あなたを見つめる事ができないのに あなたを救う事ができないのに いつも私を暗闇から掬ってくれる どうして一緒に泣いてくれるのだろう 「そのままの君でいてほしい」とあなたは言った それはまるでとても恐ろしい生き物のように 指先から身体へ這いずりまわり、私の熱を奪っていく 私であることが求められた 私でないとダメなんだ 苦しくて、息をたくさん吐いた 飾られた宝石が、私の言葉で傷付いていく 気が付いたら私は逃げ出していた 裸足のままで、宝石だけ抱えて あなたがくれた大事なものだから 私には宝石しかないから 暗闇の中で、走り続けて 抱えていた宝石をたくさん落としてしまった 拾おうとしても、真っ暗だから何も見えない あなたがいないと何も見えない 宝石は光を映す鏡だ あなたがいたからこの宝石は輝いていたんだ あなたがいたから私は いつしか宝石は砕けて 当てもなく歩き続けて いつの間にか水辺に立っていた 月の光が薄く宝石を照らし出す 欠片に残るあなたの面影に問い掛ける 私は、何色に光っていましたか?  
3.
昼想夜夢 04:05
落ち続ける 浮いている 溶けていく 固まっていく 気体になって、散らばる 固体になって、凍りつく 私はふと考える 鉛筆のロゴをなぞりながら 冷めていく紅茶を眺め 真っ白で巨大な空間に 落下していく 拡散と収縮を繰り返し シナプスと記憶をねじり合わせ 細い紙縒りの糸を張り巡らしていく 雨が降ったら溶けてしまう 12時が過ぎたら消えてしまう 脆く拙い思考の軌跡 言葉と言葉が重なる時 青い稲光を見つけた時 線と線が交わり 火花が咲き電流が奔る それは一瞬の閃光と共に 鮮やかな色彩が広がる 落ち続ける 浮いている 溶けていく 固まっていく 気体になって、散らばる 固体になって、凍りつく 一枚の紙と、一本の鉛筆で その光景を一つの言葉に書き表す 残さないようゆっくりと 同じ色を使って、丁寧に 書き写していると 空白が滲み溶け出して 空間に淡く浮き上がって 瞼の裏側にもぼんやりと 遠く地平線までグラデーションが続いている たくさんの言葉が空に浮いていて 私の欲しかった詩が浮かんでいて 手を伸ばしたら掴めそうだったのに 手を伸ばしたら掴めそうだったのに 私は落ちてしまったんだ
4.
見えているつもりになって 可能性を敷き詰めて 踏み場なんかないじゃないか ただ眺めて空想を食い散らかして 溶けた宝石、砂糖、蝋燭が垂れる 時計の針ばかり気になって 失う事を恐れて どうしてそんなに怯えているのだろう ただ妄想の世界に逃げ込んで、隠れて 溶けた宝石、砂糖、蝋燭が垂れる 君が救ってくれるんだって 君が巣食っているんだって 溶けた宝石、砂糖、蝋燭が垂れる ほらどこにも行き場なんか無いじゃないか 君はただ彷徨って苦しんで憎んで 溶けた宝石、砂糖、蝋燭が垂れる いつか誰か救ってくれるんだって いつも誰か救ってくれるって 可能性を捨て切れなくて 溶けた宝石、砂糖、蝋燭が垂れる 行き場なんかないじゃないか 逃げ場なんて、どこにも 生きる場所なんて、どこにも ただゆっくりと、眠っていたいだけなのに 溶けた宝石、砂糖、蝋燭が垂れる 不思議だったんだ いつか誰かの夢になるって 目を輝かして話す君が 僕には理解ができなくて 僕の手にした宝石が ただの石ころだったんだ 憧れている自分が許せなくて それでもまだ君が巣食っているんだ ただゆっくりと、眠っていたいだけなのに そうして君は傷ついて 彷徨って苦しんで憎んで 甘い言葉を垂らす僕を拒絶して 後少しで燃え尽きてしまうとしても いつも誰かを救っているんだって いつか僕すら救ってしまうんだって 君の事が何も分からなかった 君が巣食っているんだ 僕はただ、君と眠っていたいだけなのに
5.
灯/夜 07:59
透明な器に、太陽の光が差し込んで 透明な器に、月の光を満たしていく 空っぽのまま、私は 暖かな空の下、音の無い並木道  木漏れ日がアスファルトに迷路を描いている 目で辿っていくと、小さな子供が佇んでいた 彼は私を恐れるだろうか、怖がるだろうか 微笑みを向けると、どこかへ消えてしまった 「こんにちは」「はじめまして」 上手く言えたかな、伝わったかな 精一杯の言葉を紡いでいく あなたの笑顔の意味を知りたいから 私もあなたのように笑いたいから 太陽が当たって、暖かくて、幸せで こんな胸いっぱいの毎日を あなたと、私と、みんなと こうしてずっと過ごせたら 一つ一つの屋根の まばらについた窓に 一つ、また一つ、明かりが灯っていく 時間をかけながら、少しずつ、少しずつ 空の色が窓の中へ、少しずつ、少しずつ 母親の帰りを、ブランコに乗って待つ少年 二人手を繋いで、ベンチの上で話し込む学生 子供の声、走る足音 夕食の香り、楽しそうな歌声 私の知らなかった音が、私を満たしていく 街が生きているんだ 私もその中で生きている 太陽が当たって、暖かくて、幸せで こんな胸いっぱいの毎日を あなたと、私と、みんなと このままずっと過ごせたら 良いのにな 夕日が落ちて、ほのかな灯火が並んだ 暖かな音色はどこかへ消えていく 私のいる場所が、音も無く崩れていく 遠い記憶の中、私を呼ぶ声がする 私を愛している声、私を包んでいる声 私は、私を見つけるために、ここにいる いつかあなたは私を見つけてくれますか? あの寂しく輝く星は私なのだろう 誰もいない空で 誰も触れない、誰の声も届かない そして、誰かの暗い夜を照らし続ける 私は誰かの希望だったのだろうか 私は誰かの救いだったのだろうか それでも 私があなたの願いであるのなら 私が輝き続ける事が 一人一人の心を暖かくするのなら 誰かのためではなく、私のために 祈りを捧げよう 空に浮かぶ孤独な星が 夜を照らす光になりますように あなたを照らす灯でありますように みんなが、いっぱい、幸せでありますように だから 太陽が当たって、暖かくて、幸せで こんな胸いっぱいの毎日を あなたと、みんなに、私から たくさんの気持ちを届けたい 太陽が当たって、暖かくて、幸せで 胸いっぱいの日常に あなたと、私と、みんなで 手を取り合って、いっしょに
6.
Sphene 03:38
萌えいずる緑は黄金 うつろい易き色よ 萌えいずる葉は花 それも一瞬 やがて葉は葉に戻り エデンは悲しみに沈み 暁は今日に変わる 黄金のままではいられない 誰もが、いつかの青春に思いを馳せる 言葉に表せない、遠くおぼろげな記憶 祈りと、願いを、口ずさむ 楽しかった思い出を、歌を歌うように ゆっくりと、太陽が沈んでいく そして、変わらない月が夜を照らす 水底に、光が差し込む 君が君のままであるのなら 私は宝石であり続けよう 私にとって、君がまた宝石であるように 私も私のままであり続けたい

about

宝石をモチーフに編まれたamahisaの6thアルバム。

これまでの作品で朗読を担っていた結月ゆかりに加え、新たに紲星あかりを起用。深くディストーションのかかったギターが際立つシューゲイザー的な”黄金のままではいられない”、3rdアルバム『縁』で結月ゆかりが朗読する表題曲”縁”と地続きにある紲星あかりによる”灯/夜”など、計6曲を収録。

credits

released November 23, 2019

Compose by amahisa
Artwork by きゃらあい

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